7時間半耐久!反日連続ドラマ強制鑑賞の刑


永定土楼から深圳への高速バスルートを紹介する。

永定土楼俗文化村の繁華街(と呼ぶには貧弱すぎるが)の汽车站(バスステーション)で深圳行きのバスを買う。バス停前から朝の6:50分に乗車して、深圳までは7時間の道のりだと言う(汽车站のお姉さん談)。

行き先は深圳でなくてもよかった、ただ単にノービザの15日期間がこのままでは切れてしまうのでいったんは香港かマカオに出なければならないという事情から、香港近くの町に移動しなければならなかった。香港近くの町。といえばまさしく深圳。と、いうことで深圳に行くことになったのだ。ちなみにロンプラによるとノービザで中国に入れるのは日本人、シンガポール人、ブルネイ人だけだそうだ。

かくして6:50にバスは出発した。乗るまで知らなかったが、細長い0.5畳くらいのベッド(?)を敷き詰めた寝台型バスであった。おぉぉぉぉ、これなら7時間もいけるぞ、とほくそ笑んだ。まずは近くの永定まで行き、そこで乗り換える人たちをおろした。そこからは一路深圳まっしぐらである。

乗客は、日曜日ということもあってか家族連れが多い。子供が多くてなごむバスだった。ガラの悪い人も少なく、バス自体は快適だった。が、それだけで終わらないのが中国の四千年の魅力である。

乗車してほどなく、永定で乗り換えの人たちをおろしたあたりで備え付けのテレビがついた。なにやら映画のようなものが上映されるようだ。なんだろうと見ていると、それはまさしくあの「雪豹」であった。—雪豹— それは、中国の歴史スペクタクルラブロマンスアクション反日ドラマである。

このドラマを初めて目にしたのは中国の初日、福建省の福州市の事である。やっとのことでたどり着いた宿で何気なくテレビを付けたら戦争ドラマがやっていた。キャストは全員中国人なのに、敵側と思しき軍隊はなぜかカタコト極まりない日本語を話している。嗚呼、どうやらこれは第二次世界大戦のころの中国を舞台にしたドラマのようだと悟った。
しかもどうやら、かなり間違ったニッポンイメージが前面に押し出されている。今時の西洋映画でさえこんなひどい演出は無いだろうというくらいサムライ・ゲイシャ・フジヤマ的ニッポン像である。

そんな雪豹であるが、どうやら週一のドラマではないようだ。同じ週に2度やっているのを見た。それどころか、夕飯時のドラマでもないようだ。昼間にもやっているのを見た。さらにはかなりの人気ドラマのようでもある。とあるバスターミナルを通り抜けたとき、待合所に設置されていたテレビで雪豹が流れていて、テレビの前に釘づけになった10人ほどの中国人のうち目頭を押さえて泣いている人の姿も見られた。かなり感動的な超大作のようである。

そう、その雪豹が、その雪豹がである。俺の乗っている長距離バスで上映され始めたのである。中型バスの車内に合計3台備え付けられたテレビからそれぞれ大音量で放映される様子はさながらホームシアターのように俺を包囲した。まぁよい。楽しく鑑賞していれば終わるだろうと甘く見ていた。すぐに終わって俺もゆっくり寝付けるだろうと甘く見ていた。

ところが。この雪豹はなかなか終わらない。1時間たてばドラマなら終わるかもしれない。2時間たてば映画なら終わるかもしれない。3時間なら一大スペクタクル超大作かもしれない。が、4時間たっても5時間たっても終わらないのである。眠れるドラゴンはようやく起きただけではなく、俺を寝かしてもくれないのである。さらにそんな状況に追い討ちをかけるかのごとく、乗客の中国人は8割型このドラマに釘付けだった。ぐぐぐぐぐ。

そんな日もある。人生、晴天ばかりは続かない。あきらめて俺もこのドラマを楽しむことにした。最近知ったがこういうのをポジティブシンキングと言うらしい。で、6時間が経過した頃だった。だんだんとドラマにも飽きて来た頃だが、なにやら雲行きが怪しくなって来た。カタコトの日本人役(実際は中国人)がやたらとナンキンナンキンと言うのである。あぁ、あのナンキンか。やっぱり来るのか、と思っているとまんまと始まったのだ。

場面は南京大虐殺。残虐を極めたシーンが立て続けに流れ、それまでの伏線を見事に回収しながら視聴者に怒りを植え付ける演出が続く。乗客も今まで以上に釘付けである。俺はロンプラに目を落としたがそれでもテレビから聞こえる銃声、爆発音、悲鳴のフィルハーモニーミックス feat. カタコト日本語が邪魔をして内容が頭に入らない。エクストリームアウェーの気分だ。

果たして俺がバスを降りるまで、おそらく7時間半ほどは上映されていた。そしてさらに続くようでもあった。しかしまぁ乗客の人たちは総じて俺たちに好意的だったのがむしろ印象に残った。添乗員さんもいろいろと声をかけてくれ、どこに行きたいのか、行きたい場所があれば底に寄って、降りる前に声をかけてあげるよ、的な事を言って降ろしてくれた。そのほか周囲の人と地味に優しいやり取りがいくつかあったし、子供たちとは表情だけで意思疎通をした気になった。

この雪豹、反日一辺倒かというとどうやらそうでもないらしい。助演的な配役の男は日本人という設定で(日本語がうまいので日本人かも?)主役の中国人男性とはどうやら親友の様子。お互い酒を飲みかわすシーンでは「戦争が無かったら俺たちは友達だな」と言う台詞さえある。このあたりは少し驚きであった。ひょっとしたらこんな所でも氷が解けているのだろうか。いい日本人がいて悪い日本人がいる(生憎こっちのが超多数派のようだが)という描かれ方は斬新なのではないだろうか。中国で先の戦争がやや立体的な角度で描かれるのについつい見入ってしまった。

永定から深圳までは片道150元で7時間半ほど。車内にトイレ有りだが揺れがひどいのでウンコは不可能。もし雪豹が上映されても動じない事、一大スペクタクルなので楽しむくらいの余裕が必要。周囲の乗客はきっと優しく迎え入れてくれるはずである。

りょう の紹介

東京都品川区で生まれ育つ。サービス業、ホステスクラブ、海外ボランティア駐在員、レストランバー、コンピュータ会社などを経て独立開業。2011年から休業し、夫婦で1年ちょっとの世界一周へ。現在は帰国してイクメン父上に勤しむ。好きな食べ物はナス。言語や歴史に興味あり。コンプレックスは字が汚いこと。好きな言葉は「とりあえずビール」でポッドキャストでは世界のビールを飲み歩く「Beer the World(ビーアー・ザ・ワールド)」を担当。
カテゴリー: 永定, 中国 タグ: , パーマリンク

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