先日の病院で薬をもらい、安静を言い渡されためぐみはひたすらベッドに横たわって時を過ごす。耳も痛いし、聞こえが悪いのでたいそう不安のご様子。だが医療大国キューバのドクターが薬を飲んでいればいいと言ったのだからそれを信じるしかない。素人がネット検索をしていらん知識を仕入れるような必要もなければ、そんな環境すらない。
この休日中に、ブログ記事を18本ほど書いたり、写真を整理したり、ロンプラを読んで今後の町の情報を仕入れたりした。
「恋にも休日が必要」とは、フランスの詩人が言った言葉らしいが、「旅にも休日が必要」というのは何を隠そう俺の言葉だ。時には何もしない日があったって悪くない。
洗濯をしたり買い物に行ったりしているうちに夜になった。外に出られないほど耳が痛いめぐみになんとか夕飯を仕入れてこなければならない。スパゲッティが食べたいというリクエストに応えるべく夜のサンティアゴに出てはみたものの、どこにパスタがあるのやら。メニューを外に掲示しているような簡易カフェテリアにはパスタはおいていない。思い切ってカーサのすぐ近くにある、レストランに入ってみようと決意した。
そのレストランは、カーサと同じブロックの反対側にあり、3階部分が店になっているようだった。外からは看板しか見えずどんな場所か分からないが、安そうな所ではなかった。意を決してドアを押そうとすると、横に立っていたおじさんに呼び止められた。
「ダメだ。そんな靴じゃここには入れない」
なんとドレスコードのあるレストランだったのだ。ちょっと外に出るだけと思って、ぼろぼろのサンダルを履いていたのだ。たしかにこんな靴ではレストランどこではないのだが、かといってほかにまともなアテもないのだ。
「中で食事はしない。うちの嫁が病気で家から出られないから、パスタか何かをイェバール(持ち帰り)したいんだ」
そう言うと、おじさんは少し考えた後、シェフに相談してくると言って中へ消えた。
5分ほど待った。たぶんダメだろうと思っていたら、中から先ほどのおじさんが現れてだまって建物の中を指さした。入って良いらしい。
3階に上がると、雰囲気の良いオシャレなレストランがあった。かなり高そうだ。ワインリストとか出してきそうな店だ。やばいかもしれない。バーカウンターに行くと、シェフ、バーテン、ウェイターが俺の顔を見た。
「話は聞いているよ。好きなものを頼んで持ち帰るといい。プラスチックの持ち帰りボックスがあるからね」
恰幅の良いシェフ帽子を被ったおじさんが優しくそう言った。
なんでも良いよと言われても、値段次第だろうと心の中でツッコミながらメニューを開けて驚いた。
安い!!!!!!!!!!!!!!!
サラダが1.5〜2.0CUC、チキンライスも2.0CUCだ。人民ペソカフェに比べれば2〜3倍はするがこの雰囲気、このプロ感でこの値段設定はおかしいだろうとたまげた。メインディッシュは3〜4CUCあたりが中心だった。
結局、魚のサラダとチキンライスを頼んで合計5CUCを支払った。おそらく大皿の真ん中にちょこんと乗るような品の良い(格式張っただけの)料理なのだろう。でなければこんな値段設定ができるわけはない。カンボジアのショウガ炒めだってライスなしで1.5CUCはするのだ。
10分後に戻ることを告げて、俺は一人でカフェテリアに行った。12ペソでぱさぱさのハンバーガーを食べて夕飯に代えさせていただいた。レストランに戻ると注文の品がちょうどできあがったときだった。
でかい!重い!なんだこれは!開けてびっくりサンティアゴ。
盛りつけが恐ろしくきれいだ!具材も豊富だし、アツアツ!こんな馬鹿な話があるのだろうか!全員に心からの礼を言って店を出た。外には最初に出会った用心棒的おじさんがいた。彼にも礼を言って、1CUCを手渡した。このおじさんが話を付けてくれなければこのテイクアウトはなかったのだ。
カーサに戻ると、持ち帰りボックスのいい匂いに気がついたカーサのお母さんが話しかけてきた。すぐ裏で、5CUCで買ったと言って中を見せるとひどく驚いていた。このクオリティでこんなものが出るとは、キューバ人のママもびっくりである(このカーサの夕食は6〜8CUCだ)。
宿に戻って一部始終をめぐみに報告した。病人用と言うことであえて大量に盛りつけてくれたのかもしれない(中耳炎のため胃に問題はないといっておいた)。キューバ人の優しさに感動である。
しかしまぁ、カフェテリアで食べてこなければ良かったと後悔した。