星に願いを。


夜中に目を覚ますと、窓越しに息をのむほど美しい星空が見えた。

バスの中はもう消灯していて時計を見ることはできないが、おそらく夜中の0時をまわったころだろうか。メンドーサ発バリローチェ行きのバスは夜の8:45時間きっかりに出発した。3日滞在したメンドーサだったがこれといった観光はせずに終わってしまった。その代わり、これでもかと言うほど町中を歩き回ってみた。宿から銀行、病院、売店、ディスカウントストア、広場、バスターミナル、足のすねが筋肉痛になるほどの距離を歩いて回った。

どうやら俺はこの町が気に入ったようだ。メンドーサの街を歩いて受けた第一印象は「犬の多さ」だった。おそらく野良犬なのだろうか、道のあちこちで昼寝をしている。日向で寝る犬、日陰で寝る犬、売店の入り口まで勝手に上がり込んでひんやりと冷えたタイルにほてった体を載せて寝る犬。そしてそれを街の人たちは何とも思っていない様子だ。無視するわけではなく、邪魔と思っているようでもなく、かといってかまってあげるわけでもない。もちろん犬の方もかまって欲しいような素振りは見せないわけだが。

そんなメンドーサの人は、少し都会的で優しさを押しつけてこないタイプに映った。アジア人の顔で歩いていてもじろじろ見ることもないし振り返られることもない。道を聞けば親切に教えてくれるし、分からない時は周囲の人を巻き込んで話し合ってくれる。

そして皆のんびりと歩く。店の外まで広げられた椅子とテーブルにサンドイッチなどを持って座り、1リットルのビールを傍らに置きながらのんびりとおしゃべりをしている。アイス屋さんの外でも同じ光景が目に入ってくる。

なんて幸せそうなんだろうか。夏のこの温かい日差しの下、カラっとした風に当たりながら、ビール片手にきっとくだらないことで笑っているんだろう。羨ましい。

そんな街と人がすきになり、特にすることのないまま3日も滞在してしまった。いいかげん、帰りのことを心配しなければならないので、3日目の夜にバリローチェ行きのバスに乗ることにしたのだ。

バスの車内で夜中に目が覚めてからは、夜空をじっと見つめていた。メンドーサの街や人、寝ている野良犬や広場、ワインを模した赤い水の噴水などを思い出しながらしばらく星空を見ていると、視界のちょうど真ん中で流れ星を立て続けに3回見た。最初の2つはほぼ同時で、追うように最後の1つが流れた。特に最初の流れ星は絵に描いたような大きさと明るさで、昔の映画の「いかにも合成です」といった感じの嘘っぽさだった。が、本物だった。嘘っぽく見えてしまうほどの明るさで長い距離を「流れ」ていった。

流れ星を見たのは本当に久しぶりだ。いや、こんな流れ星を見たのは初めてかもしれない。よく「流れ星が落ちている間に、心の中で願い事を3回唱えると、その願い事が叶う」なんて話がある。昔はそんなの不可能だと思っていた。第一、流れ星なんて滅多に見られるものじゃない。それに見られたとしても3回唱えるなんて不可能に近い。きっと、誰も彼もが頼み事に殺到するのを防ぐため、簡単には実現できないようハードルを引き上げたんだろう、そう思った。

が、この星空を見ていたら、あながち無理な話には思えてこない。ちょっと空を見つめていただけで3回の流れ星。その1つはかなりの距離を動いていた。アルゼンチンじゃ星に願いをかけるハードルがかなり低いのか。星空を眺めながら準備していれば誰にでもできてしまう。

「ここの人たちはズルいな」と思ったが一方でここの人たちはどんなことを願うのだろうかと考えた。必要なものが揃い、のんびりと暮らし、天気も良くてワインが安い。自分ならもうあまり望むものはないかもしれない。

メンドーサでは星に願いをかける人が少ないから、星の方がハードルを下げてきたのかもしれない。これ、俺の仮説。

りょう の紹介

東京都品川区で生まれ育つ。サービス業、ホステスクラブ、海外ボランティア駐在員、レストランバー、コンピュータ会社などを経て独立開業。2011年から休業し、夫婦で1年ちょっとの世界一周へ。現在は帰国してイクメン父上に勤しむ。好きな食べ物はナス。言語や歴史に興味あり。コンプレックスは字が汚いこと。好きな言葉は「とりあえずビール」でポッドキャストでは世界のビールを飲み歩く「Beer the World(ビーアー・ザ・ワールド)」を担当。
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星に願いを。 への3件のフィードバック

  1. ふみ のコメント:

    星はいいね
    伊勢神宮に行ったあと宮古島に移住します またカンボジアいくんだね たのしんでね 鏡の写真はプロみたいだね
    景色がすごいと写真も愉しいだろうね

    • りょう のコメント:

      久しぶりー
      また宮古島!いいね。4月からかな?
      うちらもあと少しでアジアに戻るよ。

      南米は景色がすごくて写真を撮るのが楽しくなるよ。きれいすぎて写真の腕が上がったかと錯覚する。

  2. めんたいこ のコメント:

    日本も星ハードル下げればいいのに・・。

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