名前だけは有名ながら、旅行で行ったという人を知らない。カンボジア内戦・戦後の歴史に登場する名前なので、なんだか恐いパイリン。
しかし百聞は一見のナントカ。近場のバッタンバンに滞在していたので、ちょっと足を伸ばしてパイリンに行くことにした。
Ankor Khmer なんとかというバス会社で1人5ドル。2時間半のバスライドにしてはやや高いが、ゴージャスなバスになるのだろうと期待してチケットを購入。バスの出発は午後の3:30だ。
バス会社前で待つことしばし、こんなバスが登場した。
むむ。ボロめだな。俺的バスランクで言うと中の中くらいだ。エアコンが聞いている点で★ひとつアップ。
乗る前にめぐみが「指定席なの?」などと悠長なことを言う。カンボジアのバスで指定席など聞いたことがない。指定ではないだろうが、空いている席に座れば良いのだ。
荷物をバスの腹に預けようとするが、側面の扉を開けるとなんとバイクが入っている(笑)。豪快だな。空いている隙間に荷物を押し込んでいざ乗車。空いている席を2つ見つける。座席の下にかばんがあったが、誰かが置いたのだろう。構わず座って出発を待っていると、カンボジア人男性2人が乗り込んできて、「ここは俺の席だ」と言う。どうやら一時的に降りただけで、元からここに座っていたようだ。その後も空いている席を見つけて腰掛けると、別の乗客が戻ってきて何かを言いたげにこちらを見ている。「わかったわかった、君の席なのね」と言って移動を繰り返していると、どうやら自分の席が無いことに気がつく(笑)。結局、通路に荷物を置いてその上に腰掛けることになった。どうやら席なぞあるだろうと考えていた俺の方が悠長だった。
しかしまぁ2時間半の乗車だ。床だろうがなんだろうがどってことはないのだ。バスは快適なスピードで平らなアスファルトの道をがんがん進んでいく。のんびり到着を待っていると、バスが急に停止した。
乗務員さんが何かを叫び、後部座席の方からぞろぞろと人が出て行く。途中の停車場所なのだろうか。
と、
道のど真ん中で停まったバスから降りた乗客は、道ばたの木陰へと進んでいく。口々に「暑いわ、かなわんわ」と言っている。別に関西弁ではないが、頭の中でそう脳内変換された。
どうやらここは停車場所ではなく、バスのエンジンが故障しただけらしい。良くあることで、カンボジア人はこんなことでうろたえない。おそらくエンジン関係に精通しているとおぼしき乗客の有志が集まって、エンジンを修理し始めたのだ。
すぐに治るだろうという大方の期待を裏切り、なかなかなおらない。木陰で休む他の乗客は修理の様子をのんびりと見つめている。
だれもうろたえたりしない。近くの売店にスナックや水を買いに行く人も現れる。さながらプチピクニックタイムだ。
意外に時間が掛かるもので、徐々に日が暮れていく。
さらに待っていると、今度は鳥の群れが帰宅する時間になったようだ。
通りすがりの別のバスがさらに停車して、そこからも有志が降りて修理しているようだ。事態は思ったより深刻なのかもしれない。
乗務員さんが、乗客に対して話しかけて回り出した。最初は謝罪の言葉を述べているのかと思いきや、「バイクはあるか」と聞いて回っているようだ。バス車内に預けられたバイクのことだろう。
「バイクがある」と答えた集団には目もくれず、バイクがない人たちを探しているようだ。おそらく、バスが完全に修理不能になった場合に移動する手段のある人を探しているようだ(笑)。
聞き取り調査が終わると、乗務員さんがうちら2人を呼びつける。
「後ろのバスに乗れ」
ぬあんと。交通手段のない、(そしてうちらは意思疎通に問題がある)弱者を優先的に後ろのバスに移そうというのだ。ありがたい。
後ろのバスに乗ると、当然ながら満員御礼。めぐみは乗務員さんの計らいで2人がけのところに無理矢理3人目として座らせてもらった。俺は相変わらず通路。
しかし、大量の乗客を見捨てて乗せてもらっているのだ。床だろうがトランクだろうが文句を言える立場ではない。隣のおばちゃんや乗務員さんと楽しく会話しながらパイリンへと向かった。
しばらくするとバスはパイリンに到着した。町というかなんというか、少し家々が集まった道の途中だった。乗客はパイリンで降りるのではなく、終点の次の町へ行く人がほとんどだった。パイリンで降りたのはうちら2人だけ。降りるとすぐにバイクタクシーが来たのだが、乗務員さんも来て交渉を手伝ってくれるという親切ぶり。
結局、1ドルでバンブーゲストハウスという宿に向かってもらうことに。
ロンプラで目を付けていた、静かなバンガローのある宿だ。クソ暑すぎるので今回はエアコンの付いたリッチな宿に泊まろうと言うことに。
雰囲気のある木製バンガローは15ドル。コンクリの建物は12ドルだ。どちらもエアコン、冷蔵庫、ホットシャワーがついていて超きれい。
結局、到着が夕方だったこともありまずは安い方に宿泊した。バッタンバンの6ドルルームからすれば2倍だが、たまには贅沢もしたいのだ。翌日から3ドルましのバンガローに映ることも検討中。
しかし、あの1台目のバスは修理できたのだろうか。大量の乗客は無事に帰れたのだろうか。優先的に乗せてくれた乗務員や、それを暖かく見送ってくれたカンボジア人の優しさに脱帽。